「…このタイトル、もしかしなくても
出オチ狙いじゃんね?」
「いや、たまにはラップ調でも出さんと、何のDJだか分からなくなりそうかな、とか思った訳でな」
「DJとラッパーはまた別物な気がするんじゃけども、まあいっか。それで?」
「うむ、今回我輩がブシドーについての参考書籍として用意したのは、故隆慶一郎氏の『死ぬことと見つけたり』、九州佐賀鍋島藩に生きる葉隠武士の苛烈な生き様を描いた未完の大作である。この場ではあまり関係ないが、この作者の作品は急逝のために未完が多く、我輩としてはそれが惜しくて惜しくて悶々としつつも、余人には続きが書けようはずもないのもまた百も承知であるために何だかもう悔しくて悔しくて…氏は天に愛されてしまったのだなあ、ううう」
DJ男爵、大いに素泣きの男泣き、魂の慟哭かくあるべしといった按配。
そしてウカといえばそんな彼の様子に大分引き気味である。
「そ、それはまあなんというか残念じゃんね」
「
うむ、残念である!!」
「ええと…で?」
「お?おお、そうかブシドーについての話だったな」
「ふぅー、やっと本題じゃんねー」
ちなみにこの筆者、なかなか本題に辿り着かないのは今に始まったことではない。そしてそれは、恐らく未来永劫終わることもないと思われるのでその辺りはご勘弁願いたいと思う。
「この本においてまず真っ先に目に止まるのは、
武士とは常に死人であるということだ。葉隠武士は起床するとまず、自らの死に様について詳細に思索を巡らせるという。斬り合いや切腹などは当然として、火事や水難などの天災、果ては虎や熊を相手取った死に様まで考えていたというからなんとも凄まじいではないか」
「つまり、名探偵は既に…
死んでいるってことじゃんね?どこかしら某不死身探偵を思い出すじゃんねー」
「い、いや、この場合は肉体活動が停止しているというより、常に自らの死を意識することで日々の生活を泰然自若に送ろうという、一種異様な生き方をするのが武士である、という意味なのだが…うーん、まあ取り合えず
死んでいる事に変わりはあるまい!」
「あん人もあちしと同じ妖怪だったんじゃんねー。まあそう言われてみると確かに人間離れした異装じゃんね」
妙に納得する二人であった。
「しかしお嬢さん、実は恐ろしいというのはここからな訳でね」
「確かに、あちしというものがありながら今更PTMが妖怪でしたー、なんてことで驚くぬしさんでもないじゃんねえ」
「重要なのは武士道という生き方を志す彼らにとって、世の中の一般人が思考するような、嗜好するような、志向するような常識など
些事に過ぎないということなのだよ」
「ふむんぬ?」
「考えてもみたまえ。
我々のような一般的な人類にとって一番困った事態とは、ちょっとした例外こそはあれ、己の死であろう?だが武士という生き物は既に
死んでいるのだからっ!最早何事も、何者も、如何なる障害も、恐れることなど何一つないのが
道理っ!」
「我々って…あちしは妖怪、毛羽毛現じゃんね。んでぬしさんはええと、なんだか分からないけど非一般的何か。んでブシドーはんはゾンビーで、ニートはんは…あー、あん人は一般的人類かも分からんね」
「フフ、迅速なツッコミ痛み入るよお嬢さん。だが彼、ニートくんは言わずと知れた究極生命体だから人類には非該当、だろうな」
「人類…この地上を席巻して久しい種族が
こうも遠く感じられるとは、なんとも言えず酷いブログじゃんねー」
「ま、まあそれは良いとして。ここで問題になってくるのは、そんな常住坐臥一挙手一投足全身全霊フルボッコみたいな彼が…
探偵であることなのだよ!」
「うーん確かに物語に探偵が登場して
人が死なないなんてことはないものね」
「そう、彼の登場によって我々も、死の危険に晒されつつあるということなのだ」
「あの行く先々で事件が起こり人が死ぬ、死神兼疫病神的存在。圧倒的頭脳で常々間違わない超絶職種、中には絶対に推理が外れるという某メタ探偵のような例外もいるらしいけんど、結局究極最終的には犯人を執念で御用にする正義の使者。そこに武士道の要素を加味したら…」
「そう、犯人は勿論のこと彼に疑われたもの、その場に居合わせた者、彼の仲間、果ては無関係な通行人、カラス、泥田坊、樹木どころか雑草の一本までも確実に…」
「死滅するっ!」
「探偵というものは、あくまで常識の範囲内で行動することにより、その途轍もない影響力を最小限に抑えることが可能なのだ。もしそんな彼らを常識のくびきから解き放ってしまえば、どうなる?それは例えば赤子に世界の命運を握らせる、チューブワームに銀河の栄枯衰勢を占わせる、ボツリヌス菌に宇宙が膨張しているか縮小しているかを論議させるようなものさ」
「うーん、なんという人間最終兵器じゃんね…」
「そして彼は、目に付くもの全てを破壊尽くしたあと、満足げに
切腹するだろう。それが武士道の行き着く果てであり、またその為のものであるからだ」
そこまで言うと彼は突然空を仰ぎ、大いに嘆息。
ぽつりと言った。
「取り合えず我輩は、彼を御せるであろう『殿』を探す旅に出ようと思う」
「…殿、ねえ」
次回殿様探し編、に続く未定。
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